丸二陶料のシラン系食器用止水剤(液体セラミック)を使ってみた

丸二陶材 食器用止水剤
丸二陶材の食器用止水剤 J-50

先日買った器の目止めをするために、いわゆるシラン系(液体セラミック)の止水剤を使ってみた。

陶器と汚れ

陶器の器を使っていて気になるのが、その素材に由来する一種の汚れやすさだと思う。釉薬が掛かっていない部分は吸水性が高いことから、色の濃い水分を染み込むとシミになりやすく、また、釉薬がかかっていても表面のひび割れ(貫入)に汚れが入り込んで取れなくなってしまうことがある。陶器を使っていく上で、この種の汚れやすさはある程度妥協しながら付き合っていく必要があるらしく、昔から貫入に茶渋などで色が付くことを「景色が育つ」として楽しむ文化もあるようだ。一方で、やはり繊細な色彩の器を、できればそのままの姿で使っていきたいという気持ちもある。

竹本ゆき子さんの片口小鉢
こういった貫入は綺麗なままにしたい

吸水性が高いことのもう一つの難点は、カビが生えやすいということにある。貫入に色が付く程度ならまだいいのだが、器の乾燥が不十分だったりすると、水分とともに侵入したタンパク質や炭水化物を栄養としてカビが生えてしまうことがあるらしい。今の所うちの器が被害にあったことはないのだが、衛生面から考えて、器にカビが生えてしまうのはどうしても避けたい。

貫入の着色やカビを防ぐ対策はいくつか知られている。新しい器を下ろす際には「目止め」と呼ばれる作業をして、貫入や素焼き部分の隙間を予め埋めると良いと言われている。また、日常的な対策としては、陶器の器を使用する前に、予め水に5分程度漬けておくと、料理の水分が急激に器の中に浸透するのを防ぐことができる。さらに、器を使用したあとは、漬け置きなどはせずに、すぐに洗浄してよく乾燥させるのが良いとされる。漬け置きにより汚れた水分が器に浸透するのを防ぐためだ。

目止めの仕方とシラン系止水剤

「目止め」の仕方については、古くから様々な方法が伝承されているようだ。よく聞くのは、米の研ぎ汁を使ったり、米と一緒に器を煮込む方法で、米のでんぷん質が貫入や素焼き部分の隙間を埋めるという理屈らしい。実際にそれなりに効果があるらしいと言われているが、一方ででんぷん質がカビの原因になるのではないかという説もあり、現代においても使い続けるべき手法なのかどうかには疑問も残る。その他には、単に水だけで器を煮るという手法もあるようなのだが、こちらは原理すら不明のようである。可能性としては、水中のミネラル分が隙間を埋めることを期待しているのかもしれない。鉄瓶を止水する際には、水を沸かすことでミネラル分(水垢)を蓄積させるらしいので、似たような発想なのだろうか。

さて、現代においては一歩進んだ目止めの手法として、シリコーン系とシラン系の止水剤が販売されている。これらは米のでんぷん質と同様に、貫入や素焼き部分の組織の隙間を充填することで止水効果を発揮する。どちらも、どうやら土木業界で実績があるらしく、特にコンクリートの保護に用いられているらしい。検索してみると、性能を検証する論文などを比較的多数見つけることができる。もちろん、器に使う場合は食器に利用できるグレードの物を選ぶ必要がある。

シリコーン系とシラン系の違いは、耐熱温度などにあるようだ。詳細なことは各製品のスペックに譲るとして、傾向としてはシラン系の製品のほうが耐熱性に優れるようだ。メーカーに問い合わせをし て比較実験を行っている記事もある。入手さえ可能であれば、シラン系の止水剤のほうが性能は良さそうである。

シラン系止水剤製品たち

シラン系の食器用止水剤はいくつか製品があるようだ。ただ、インターネット上にはあまりまとまった情報が無い。製品名としては「液体セラミック」という言葉が使われることが多いようだ。もしかするとOEMなども含まれていて、中身は同じ、ということもあるかもしれない。

以下に、検索して見つかった製品を一覧にする。

粋工舎 液体セラミック

インターネット上に販売サイトがそれなりにあり、入手は容易な模様。いくつか実際に使用している人の記事も見つかる。陶芸家による使用例(その1その2)もあり、それなりに性能が確からしいと思われる。500gで2,700円~3,300円程度。

丸二陶料 食器用止水剤(J-50)

筆者はこれを購入した。インターネットで購入できる他、大阪にある大阪丸二陶材でも取り扱っている。成分には「シラン系混合物水溶液」と書かれている。PH11のアルカリ性とのこと。1リットルで2,590円だった。ほぼ無臭。

グット電機 食器用防水材

こちらもインターネットで購入できるサイトがいくつかある。300gで2,500円前後。

西浦商事 フリップコート

サイズは大小あり、500ccで1,300円。2倍まで希釈できるらしい。いくつか使用例が見つかる(その1その2)。

セラミックアート 液体セラミック

1件だけ使用例を見つけることができた。メーカーの公式サイトを見ると、通常版が500ccで1,200円、強力タイプが500ccで2,000円とのこと。成分などの詳細は不明。

藤原陶芸用品店 液体セラミック

小さいサイズの液体セラミックも販売している。100ccが972円。詳細は不明。

どれを買うべきか

インターネット上の情報だけに頼るのであれば、粋工舎の液体セラミックのシェアが一番高そうではある。性能的にも特に批判的な意見を見つけることは出来なかった。後述するが、丸仁陶料のJ-50も性能的には特に問題なく使用できた。

丸仁陶料 食器用止水剤 J-50の使い心地

筆者は日本への一時帰国時に急いで止水剤を調達する必要があったことから、近所で店頭販売されていた丸二陶料の食器用止水防止剤を購入した。

背面ラベルによると使用方法は以下の通りだ。

作業時はゴム手袋の着用が必要とのこと(アルカリ性なので)。筆者は刷毛塗りが面倒なので基本的に全ての器を止水液につけて使用した。水溶性なので匂いや危険性があまりないので作業がしやすい。

こういった製品を使う場合、一番の心配は器の見た目に影響はないか、というところだと思う。筆者もこの点を非常に心配していたのだが、実際に使ってみると、手元の器ではどの器も全く変化が起こらなかった。もちろん、止水液につけている間は、水分が浸透して色が変わることもあるのであるが、これは水に浸したときと全く同じである。乾燥すれば色の変化も収まる。もちろん、器によっては変化があるかもしれないので、ある程度のリスクは承知しておく必要がある。

効果の程はというと、判定が難しい部分がある。というのも、器によっては最初から止水処理がされているものもあるらしく、そもそも意味がない場合があること、そして貫入部分に対する汚れの蓄積は時間をかけて対照実験を行ってみないと判断しきれない。

一点で明らかに効果が見られる器もあって、例えばある白い粉引の器はなかなかの勢いで止水液を吸い込んでいたのだが、処理後に水を注いでもほぼ吸水が行われなくなった。器によっては数回処置を行う必要があるかもしれないが、効果自体は間違いなくあるようだ。

まとめ

目止め自体、必須かと言われるとそうでもないのだが、なるべく綺麗なまま器を使いたい場合は、やっておいても損はない。購入時に少し手をかけるだけで、シミやカビの心配をすることが減るので、精神的に楽になれる。市販のシラン系止水剤は、扱い自体もそこまで大変ではないので、作業面で躓くこともないであろう。止水液自体は1リットルもあればかなりの量の器を処理できるので、金銭的な負担も大きくない。特に、綺麗な貫入を残したい時には、選択肢として検討してみるといいと思う。