F値、ISO感度、シャッタースピードの理論値を計算する
普段露出の値はカメラ任せで、特に1/3段についてあやふやな気がするので、一度自分で計算する。
F値の1/3段を計算する
F値を段数から計算する場合、F値は1段ごとに√2倍となる指数関数(段数をnと置くと、√2^n
)として定義できる。F値の場合、入射瞳の面積と口径の関係から、段数当たりの変化が2の平方根である√2(約1.4)となる。
指数関数なので、整数段のF値(例:F1.4、F2、F2.8、F4)から1/3段のF値を線形に補間することはできない。たとえば、F2.8とF.4の間について1/3段を求める場合、単純にその差である1.2を3分割してF3.2(2.8 + 1.2/3
)、F3.6 (2.8 + (1.2 * 2/3)
)という数字を求めるのは間違った計算となる。
段数からF値を正しく計算する場合、前述の√2^n
を用いる必要がある。上記の例のようにF2.8とF4の間の1/3段について計算すると、F2.8は(F1から)3段なので、√2^(3+1/3)
と√2^(3+2/3)
を計算して、それぞれ3.174...と3.564...が得られる。四捨五入するとそれぞれ3.2と3.6なので、この場合は線形補間で求めた数値と同じになる。これは累乗の底(√2)が小さいためで、常用域の段数においては正しい計算で得られる理論値と線形補間で得られる値に大きな差が生じることはあまりない。
ところで、興味深いことに、カメラの表示するF値は、理論値と若干の乖離がある。たとえば、F1.4より1/3段明るい理論F値はF1.259...なので有効数字2桁で四捨五入するのであれば、F1.3であるが、現在一般的に使われているのはF1.2である。同様に、一般に使用されるF3.5についても、単純な四捨五入で求めるならば、F3.6が正しそうに思える。整数段を見てみても、5段のF5.6と9段のF22はそれぞれ理論値の四捨五入とは異なる数値になっている。どうやら理論値が整数にならない場合(F値が2の倍数ではない場合)には、1段低いF値に1.4を掛けて計算しているように思われる。F5.6の場合、4 * 1.4 = 5.6
であるし、F22の場合も16 * 1.4 = 22.4
で、四捨五入すれば22になる。理論的に計算した厳密な数字よりも、1.4倍で計算できる分かりやすい数字を優先したのかもしれない。なお、国際規格であるISO 517:2008を見てみると、整数段については定義がある(3.2.1 Standard series of f-number marking)が、各数値が採用された経緯は記載されていない。また、1/3段についても理論値が掲載されているものの、数値の丸め方については指定が無いようだ。
段数 | 理論F値 | 理論F値(四捨五入) | F値 |
---|---|---|---|
0 | 1 | 1 | 1 |
1/3 | 1.122462048 | 1.1 | 1.1 |
2/3 | 1.25992105 | 1.3 | 1.2 |
1 | 1.414213562 | 1.4 | 1.4 |
1 1/3 | 1.587401052 | 1.6 | 1.6 |
1 2/3 | 1.781797436 | 1.8 | 1.8 |
2 | 2 | 2 | 2 |
2 1/3 | 2.244924097 | 2.2 | 2.2 |
2 2/3 | 2.5198421 | 2.5 | 2.5 |
3 | 2.828427125 | 2.8 | 2.8 |
3 1/3 | 3.174802104 | 3.2 | 3.2 |
3 2/3 | 3.563594873 | 3.6 | 3.5 |
4 | 4 | 4 | 4 |
4 1/3 | 4.489848193 | 4.5 | 4.5 |
4 2/3 | 5.0396842 | 5 | 5 |
5 | 5.656854249 | 5.7 | 5.6 |
5 1/3 | 6.349604208 | 6.3 | 6.3 |
5 2/3 | 7.127189745 | 7.1 | 7.1 |
6 | 8 | 8 | 8 |
6 1/3 | 8.979696386 | 9 | 9 |
6 2/3 | 10.0793684 | 10 | 10 |
7 | 11.3137085 | 11 | 11 |
7 1/3 | 12.69920842 | 13 | 13 |
7 2/3 | 14.25437949 | 14 | 14 |
8 | 16 | 16 | 16 |
8 1/3 | 17.95939277 | 18 | 18 |
8 2/3 | 20.1587368 | 20 | 20 |
9 | 22.627417 | 23 | 22 |
ISO感度の1/3段を計算する
現在一般的に使用されるISO感度は、ISO 100を基準として、単純に2の指数関数である(段数をnと置くと100 * 2^n
)。ISO 100から1段感度を上げるとISO 200であり、その次はISO 400となる。
ISO感度も指数関数であるから、F値と同じく、単純な線形補間で1/3段を求めることはできない。例えばISO 100とISO 200の間の1/3段を考えた場合、その差の100を1/3で分割して、100+100*1/3=133.333...
と100+100*2/3=166.666...
でISO 133とISO 167と計算することはできない。
正しく計算するには、前述の式のn
に数値を代入するだけで良い。、例えばISO 100から1/3段感度を上げる場合は、100 * 2^(1/3) = 125.99...
となる。この数値を四捨五入すると126であるが、実際にはISO 125と表記されるのが一般的となっている。
ISO感度もF値と同じく単純に四捨五入するというよりは、小数点以下は切り捨てるなどしてわかりやすい数字を選んでいるようだ。これはISO感度が4桁を超えると特に顕著で、先頭2桁だけを残して残りの桁は0とするのが一般的らしい。例えばカメラで表示されるISO 20000の理論値は約20319である。
シャッタースピード
シャッタースピードはF値やISO感度よりも理論値と表示値の乖離が大きく、整数段ですら差が大きい。
本来、整数段は2の累乗(...32、16、8、4、2、1、1/2、1/4、1/8、1/16、1/32...)になるはずのところ、不思議な丸め込みにより、15以降は5の倍数(...30、15、8、4、2、1、1/2、1/4、1/8、1/15、1/30...)を使用することになっているようだ。これは歴史的な経緯と「わかりやすさ」によるものらしい。これらの数字の一部はISO 516:2019にも記載がある(5.1.1 Exposure time marking)のだが、その経緯については説明がない。
シャッタースピードも段数から理論値を求める場合は指数関数となるため、1/3段の計算は、ISO感度と同じく線形補間ではなくて指数関数への代入を行う必要がある。例えば、1秒(0段)から1/3段シャッタースピードを延ばすと2^(1/3) = 1.259...
で約1.3秒となる。
シャッタースピードの場合、特に長時間シャッターでは表記の値と実際の値の乖離が大きくなるので気を付ける必要がある。表記が15秒でも実際は16秒であるし、表記が30秒の場合は、実際には32秒であるから、2秒の差となる。