なぜアメリカには価格.comが存在せずGreentoeがあるのか
アメリカで家電製品を買おうとすると、どの小売店も大体同じ値段で販売されていることに気がつく。例えばカメラを買う場合、Google Shoppingで表示される価格は店にかかわらず横並びだし、セールが行われるタイミングや割引後の金額も概ね統一されている。アメリカにおいては、価格だけを見た場合、どの小売店で購入しても大差がない。一方で、日本であれば価格.comなどのサイトで価格を調べると、販売店によってそれなりに大きな価格差があり、サポート体制や信頼性などを考慮したうえで購入する店舗を選ぶことができる。この差はどこから生じるのか。
アメリカには「最低広告価格(Minimum Advertisement Pric、MAP)」という概念がある。名前の通り、広告に掲載できる最低の価格である。一般に、メーカーと小売店が正規販売店としての契約を行う際に、小売店側はメーカーが指定するMAPを遵守するように求められる。「広告」の中にはオンラインサイト上での価格表示も含まれるため、オンラインショッピングサイトの価格はメーカーが指定したMAPに従って設定される。基本的にどの小売店にも同様のMAPがメーカーから指定されるため、オンライン上で見かける製品の価格は横並びとなる。セールのタイミングや値引き幅もMAPとして設定されるらしく、「この店は他の店よりもお買い得だ」ということがめったに発生しない。
アメリカにも日本と同じく独占禁止法(Antitrust Law)があり、メーカーが小売店に対して販売価格を強要することは禁止されている。日本ではメーカーによる基準価格が「メーカー希望小売価格」と呼ばれるように、アメリカにおいても「Manufacturer’s Suggested Retail Price(MSRP)」が使用される。これらの価格はあくまでも「希望」価格であるので、小売店は自由に価格を設定することができる。
では、MAPは独占禁止法に抵触しないのかというと、どうやら「しない」という整理になっているらしい。というのも、MAPはあくまでも広告上の最低価格を設定するものであるので、小売店が(広告に掲載せずに)実店舗で商品を値下げ販売することは禁止されていないから、ということらしい。オンライン販売が主流となっている現在においては、MAPが実質的な強制価格として運用されているように見えるのだが、「MAPのおかげで大規模チェーン店に個人経営の小売店が対抗できる」とか「ブランドの維持に有用」とか「実店舗のショールーム化を避けることができる」といった側面もあることから、現在のところは許されているらしい。日本のような自由な値付けに慣れていると不思議な理論にも感じられる。
ちなみに、小売店側は価格で他店と対抗しづらいことから、価格据え置きでアクセサリーをバンドルする、提携クレジットカードでキャッシュバックすることで実質的に値下げする、返品可能期間を長くする、送料無料の対象を増やすなどの工夫で消費者を呼び込もうとしているようだ。真偽のほどは不明だが、店によっては新品の商品をわざと開封(もしくは開封したことに)して「Open Box(新古品)」として割引販売するということもあるらしい。
MAPに支配されたオンラインショッピングの抜け穴として、Greentoeというサイトが存在する。このサイトはユーザーによる入札を基本とした家電製品の販売サイトで、消費者は希望する商品購入を「オファー」することができる。Greentoeには正規販売店も登録しており、ユーザーのオファー金額に問題が無ければその価格でオファーを受け入れ、もしオファー額が低すぎる場合は「カウンターオファー」として販売可能な金額を提示することができる。この時、オファー内容はそのユーザーと小売店の間でのみ観覧可能であり、オンライン上の「広告」にはあたらない。そのため、MAPから逸脱した価格での取引が可能になるという仕組みらしい。
実際にGreentoeを使用すると、MAPよりもかなり割り引いた価格で商品を購入することができる。どの小売店がオファーを受け入れるかはその時の状況次第ではあるものの、金額だけ見れば安定して割引購入することができるようだ。自分が経験した範囲では、実際に商品を発送する小売店は正規販売店であったし、商品自体に問題があったこともない。
ただし、Greentoeが完全に(メーカー側から)許された存在かというと、どうやらそうでもないらしい。商品を販売した小売店の名前を公開することはルールで禁止されているし、商品に同梱されてきたレシートの金額が、なぜかMAPに置き換わっていることもあったりする(レシートは製品登録時などにメーカーに提出することが多いためだろうか)。なんとなく、メーカーからの圧力を回避したいという気持ちを感じてしまうし、どうやら何らかの理由でGreentoeから撤退した小売店も存在するようである。
日本の場合、メーカーが小売価格を維持したい場合は、メーカー自身が在庫リスクを持つことになる(指定価格制度)。最近の例ではパナソニックや日立が指定価格制度を導入して、小売価格の管理を行っている。自分で在庫を持てば自分で価格を決められるという仕組みはわかりやすい。個人的にはアメリカのMAP方式よりも、日本の指定価格制度のほうが直感的かつフェアに感じる。